うちの子はギフテッド? それともアスペルガー症候群?
ギフテッドとASDには一部似た特徴があるため、「我が子がどちらなのかわからない」という方もいらっしゃるでしょう。実際に、専門家でも区別が難しく、ギフテッドをASDと誤って診断してしまうこともあるようです。
ギフテッドとASDは表面上の困りごとは似ていても、原因が異なるため、異なる支援が必要と言われています。(ちなみに、ギフテッドは医学的な基準ではありませんので、診断されるものではありません。)
知能に遅れがない自閉症をかつてはアスペルガー症候群と呼んでいました。現在では、ひとつの連続体の障害として、自閉症スペクトラム(ASD)と名称が変更されています。この記事では、以降、ASDという呼称を使用します。
ギフテッドとASDの比較(アメリカ)
ギフテッドとASDの違いを知る糸口として、まず最初に、アメリカのDavidson Gifted Organizationに掲載されている記事をご紹介します。
ギフテッドの特徴
(NAGCおよびDavidson Institute依拠)自閉症スペクトラム(ASD)の特徴
(CDC依拠)変わった分野への情熱的な興味 執着ともとれるほどの興味を示す 同年齢の子供たちとの交流が難しい 他者と関係を築くことが難しい。または他者にまったく興味がない 自身や他者に対する期待が高く、フラストレーションを感じることがよくある 他者の感情を理解することが難しい。または自身の感情を伝えることが難しい 遊びにおけるルール厳守 ごっこ遊びや、人と交流する遊びをしない 実行機能における課題(※) ルーティンの変更に適応しづらい 感覚が人よりも敏感 匂いや、味、見た目、感触、音などに変わった反応を示す 衝動的、情熱的、エネルギッシュ 過敏、衝動的、興味が薄い 訳注※実行機能とは、ワーキングメモリ、柔軟な思考、自己制御などを指します。 (中略)
ギフテッドの特性もASDも、どちらもスペクトラム(グラデーション)になっている特性です。明らかにギフテッドまたは明らかにASDという方がいる一方で、より詳細な情報や背景や、プロの見解がないと、どちらとも言い切れないような状況であることもあります。
現時点でギフテッドかASDかあるいはその両方かを判定する完璧な方法はありませんが、判断に迷う場合にカギとなるポイントがあることがわかってきました。
例えば、「同年代との交流が困難」という場合、ギフテッドは「もっと深く話しあいたい」、「もっと大人っぽい友人関係を築きたい」と思っています。一方、ASDの場合は、「もっと仲良くなりたいという希望を持っているけれど、表情を読み取ったり、感情を表現したりすることが難しい」と感じます。
Davidson Institute; Gifted, On the Spectrum, or Both?
いかがでしょうか? 項目によっては、判断が難しい部分もありますね。
ギフテッドとASDの類似点
例えば、「変わった分野への情熱的な興味」と「執着ともとれるほどの興味を示す」については、とても判断が難しいと思います。また、同じような状態にもかかわらず、ギフテッドには「情熱的」、ASDには「執着」という表現が使われています。
ただ、興味の対象が「扇風機」などの回るもので、かつ構造への知的興味でない場合は、ASDの可能性が高そうです。
また、「感覚が人よりも敏感」であることと「匂いや、味、見た目、感触、音などに変わった反応を示す」ことも、非常に似通っています。よく聞くのは、ギフテッドやHSCは、プラスの方向にも敏感だということです。「朝のいい匂い」や「音楽に感動する」などのプラスの反応がある場合は、ギフテッドやHSCかもしれません。
また、ギフテッドは五感でない部分にも敏感であることがあります。これを「過興奮性」あるいは「過度激動」と呼びます。「自然の美しさに感動する」「ニュースを見て心を痛める」などの様子がある場合は、ギフテッドかもしれません。
ギフテッドとASDの相違点
一方、明らかに違う部分もあります。「ルーティンが変わることへの抵抗感」は、表を見る限り、ギフテッドには見受けられません。
そのほか「ごっこ遊びをするかどうか」「同世代以外の人との交流」などが、ギフテッドかASDかを見分けるキーになるかもしれません。
ここで、『わが子がギフティッドかもしれないと思ったら』の訳者であり、研究者である角谷詩織先生の論文を引用します。
ギフティッド児の問題の多くが,教育環境の調整により,最も効果的に,そして,劇的に改善されるのです。それは,本稿第三回の記事にも述べますが,ギフティッド児の問題のほとんどが,「合わない環境」においてのみ見られ,そうでない環境では,問題が皆無,あるいは,ほとんど見られないということからもわかります。これは,障害のある子どもが,ほぼどのような文脈においても問題を示すことと,大きく異なる点です。
ギフティッド児の誤診を防ぐ:その理解と,適した環境の必要性
発達障害の場合、どんな環境であっても困難さが出るが、ギフテッドの場合は環境によっては問題が消失する、ということですね。
「インターナショナルスクールに行ったとたん、問題行動がなくなった」という話もききますので、たしかにそういう側面はありそうです。
一方、発達障害も環境によって問題がなくなる、とも聞くので、このあたりはなんとも言えません。
ただ、ギフテッド児も、二次障害を起こしていることがあります。そのような場合、心が回復するまでは環境いかんにかかわらず、問題行動が続く場合があります。
ギフテッドをASDとみなしてしまうことのリスク
『ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法』では、ギフテッドの子に、発達障害というラベルを与えてしまうことにより、保護者や支援者が誤った支援を行うことに警鐘を鳴らしています。
例えば、「この子はASD」という色眼鏡があると、「大好きな体育がなくなってショック」などの発言を「予定外のことに弱い」と判断し、必要のない支援を行ってしまうかもしれません。また、本当は「誰と遊ぶかよりも、何で遊ぶかを重視している」だけなのに、「人づきあいが苦手だ」と解釈してしまうかもしれません。
ギフテッドの子に、ASDの子と同じ支援をし続けても、効果が上がらないどころか、「支援を受けても改善しない」と自信を失い、余計に事態を悪化させてしまうこともあります。
ギフテッドと発達障害の併存(2E)について
ギフテッドと発達障害は別物です。
しかし、ギフテッドと発達障害を併存する人もいます。そのような人たちは、二重に特別という意味で、twice exceptional(2E)と呼ばれます。
2Eについてはこちらをご覧ください。
すでにWISCを受けていて、IQとギフテッドの関係が気になる方は、こちらをご覧ください。