2022年の2月に、WISC-V(ウィスク・ファイブ)の日本版がリリースされました。
アメリカでは2014年からWISC-Vに切り替わっていました。これからは日本でも、WISC-IVに代わって、WISC-Vでテストをするところが増えてくると思います。
しかし、日本ではWISC-Vが始まったばかりで、保護者向けの情報は、ほとんどありません。
そこで今回は、英語圏のウェブサイトなどから情報を集めてきました。WISC-Vを受けようと思っている方や、スコアの見方について知りたい方の参考になればと思います。
WISC-IVとWISC-Vの違い
もっとも大きな違いは、指標が4つから5つに増えたこと。
WISC-IVとWISC-Vの指標を比較してみます。
- 言語理解(VCI)
- 知覚推理(PRI)
- ワーキングメモリ(WMI)
- 処理速度(PSI)
- 言語理解(VCI)
- 視空間(VSI)
- 流動性推理(FRI)
- ワーキングメモリ(WMI)
- 処理速度(PSI)
WISC-Vでは、それまで「知覚推理」として行っていたテストが、「視空間」と「流動性推理」にわかれました。
「視空間」は、積み木やパズルのような、図形的・空間認識的な力。
「流動性推理」は、行列の問題のような、法則を見つけたり推理したりする力。
これによって、「空間認識は弱いけど、推論は得意」という子たちの能力が、より正確に測れるようになりました。またその逆で、「推論は苦手だけど、空間認識は強い」という子の強みが、よりはっきりと数値でわかるようになりました。
WISC-Vのスコアの見方
全体的なスコアの見方はWISC-IVと同じです。
130点以上 | 非常に高い |
120〜129点 | 高い |
110〜119点 | 平均の上 |
90〜109点 | 平均 |
80〜89点 | 平均の下 |
70〜79点 | 低い(境界知能) |
69以下 | 非常に低い(知的障がい) |
平均はIQ100、IQ130以上で「非常に高い」となります。同年齢・月齢で見ているので、「5歳の120のほうが7歳の120よりハイスコア」ということにはなりません。
WISCでの表記は130以上はすべて「非常に高い」となりますが、ギフテッド・レベルは以下のようにおおまかに分類されています。
IQ115-130 | マイルドリー・ギフテッド |
IQ130-145 | モデレートリー・ギフテッド |
IQ145-160 | ハイリー・ギフテッド |
IQ160以上 | プロファウンドリー・ギフテッド |
WISCのスコアの上限は160なので、160以上はWISCでは測定不能です
WISC-Vの解釈とギフテッド判断方法
WISC-IVからWISC-Vにかわったことで、ギフテッドかどうかの判定は何かかわるのでしょうか?
結論からいうと、大きく変わることはありませんが、参考にできる指標が増えています。
日本において、ギフテッドを診断したり、正式に判定することはできません。そのため、ここから紹介する内容は、「ギフテッドの目安になる」という程度にとらえてください
アメリカのギフテッドプログラムでは、FSIQ(全検査IQ)の値がプログラム参加可否の目安になることも多いようです。その場合のIQは、地域によって差がありますが、125や130というのが一般的です。
しかし、高IQの子供の場合、各指標の得点差が大きいことがよくあります。各指標の差が大きいと、FSIQの値から知能を判断することはできないと言われます。
そのため、ギフテッドかどうかを判断するためには、FSIQだけではなく、GAIなどのほかの指標も丁寧に見ていくことが必要です。
PEARSON社の見解
WISC-Vの『理論・解釈マニュアル』(The WISC–V Technical and Interpretive Manual)には、ギフテッド判定においては、FSIQとGAIの数値を活用できることが書かれています。
ギフテッド児は下位検査すべてにおいて好成績を残しますが、中には、「言語的スコア」と「非言語的スコア」に大きな開きを示す子供たちもいます。
ギフテッド児は通常、「言語理解」「視空間」「流動性推理」で高スコアを記録します。そして、多くの場合、「ワーキングメモリ」と「処理速度」は、平均よりは高いものの、「言語理解」「視空間」「流動性推理」よりも低いスコアにとどまるのが一般的です。
米NAGCの声明
NAGC(National Association for Gifted Children/全米ギフテッド児童協会)は、FSIQの値のみでギフテッドを判定することに警鐘を鳴らしています。
NAGCは、2018年、以下の項目のいずれかひとつでも基準を満たせば、ギフテッドプログラムの候補にいれるよう推奨しています。(参考URL:https://files.eric.ed.gov/fulltext/ED600122.pdf)
- VECI(Verbal (Expanded Crystallized) Index):(SI、VC、IN、CO)
- 非言語性能力指標(NVI):(BD、MR、CD、FW、VP、PS)
- EFI(Expanded Fluid Index):(MR、FW、PC、AR)
- 一般知的能力指標(GAI):(BD、SI、MR、VC、FW)
- 全検査IQ(FSIQ):(BD、SI、MR、DS、CD、VC、FW)
- EGAI:(SI、VC、IN、CO、BD、MR、FW、AR)
VECI、EFI、EGAIの定訳は見つかりませんでしたが、以下のイメージに近そうです。
VECI:言語理解指標
EFI:流動性推理指標
EGAI:言語理解・視空間・流動性推理を合わせた指標
アルファベット2文字は、個々のテストの名称です。たとえば、BDは積み木模様(Block Design)、SIは類似(Similarities)のテストのこと。各指標のスコアが気になる場合には、検査を実施してくれた心理士さんに聞いてみてください。
また、数学的な才能を図るうえでは、量的推理指標QRI(FWとAR)が指標になることも明記されています。
WISC-IVにおいて、ギフテッドの目安としてIQを活用する場合には、「言語理解のスコア」「知覚推理のスコア」「FSIQ」「GAI」の4つがメインでした。それと比べると、参考にできる指標が少し増えたという印象です。
各指標は、心理士さんに要確認
通常の検査結果では、以下の6項目しか教えてもらえないことが多いと思います。
- 言語理解(VCI)
- 視空間(VSI)
- 流動性推理(FRI)
- ワーキングメモリ(WMI)
- 処理速度(PSI)
- FSIQ
そのため、VECI、NVI、EFI、GAI、EGAIなどのスコアを知りたい場合は、心理士さんに相談してみてください。(保護者が計算することはできないと思います)
まとめ
2022年2月に、ようやく日本でも使用され始めたWISC-V。2023年の7月には換算表が発売されるなど、心理士向けのツールも充実してきました。
これから、どんどんWISC-Vでの心理検査が増えてくると思います
一方、まだまだ保護者向けの情報は少ないのが実情ですので、このコラムが少しでも参考になればうれしいです。
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