日本で「ギフテッド」について議論されるようになったのはここ数年のこと。
保護者から「我が子はギフテッドです」と言われても、どのような対応や配慮をしたらいいか、困ってしまうかもしれません。
そこで今回は、ギフテッドのお子さんについて、先生に知っておいてほしいことをまとめました。もし学級に、ギフテッドと思われる子供がいたら、ぜひ参考にしてみてください。
この記事は、アメリカのギフテッド支援団体であるDavidson Instituteに記載されたコラムを参考にしています。
1. 「ギフテッド=天才」ではない
ギフテッドと聞くと、「世紀の天才」と思われるかもしれません。しかし、ギフテッドとされる子供全員が、天才というわけではありません。偉業を成し遂げるような「天才」は、むしろ少数派だと思ってください。
ギフテッドをテレビで取り上げる場合、テレビ局はどうしても「天才」の要素を強調します。テレビで取り上げられたギフテッドと違うからと言って「この子は本物のギフテッドではない」ということにはなりません。
仮にIQ130を基準とする場合、ギフテッドは全体の約2~3パーセント。クラスに1人いる計算になります。
アインシュタインは100年に1人、ダ・ヴィンチは500年に1人の天才と言われています。ギフテッドは、クラスに1人いる計算になるので、もっとずっと普通の子です。
2. ギフテッドは発達障害ではない
ギフテッドは発達障害とは異なる概念です。
ギフテッドと発達障害を併せ持つ子供もいますが、ギフテッド=発達障害ではありません。ギフテッドの中で、発達障害を併せ持つ人を「二重に特別」という意味で、2E(ツーイー・twice exceptional)と呼びます。
どんぐり発達クリニックの宮尾院長の資料によれば、平均的なIQの人たちのなかで、発達障害が発生する割合は6.5%ですが、ギフテッドではその約2倍。つまり、2Eは、ギフテッド全体の約13パーセント程度いることになります。
ギフテッドの子供は非同期発達を示すことも多く、WISCの下位検査で大きなスコアの差を示すことも多いです。しかし、「差が大きいこと」と「発達障害」はイコールではありません。
表面的な困りごとが似ていたとしても、発達障害と同じ対応ではうまくいかないことが多いと言われています。
3. すでに知っていることを「学ぶ」のは苦痛である
ギフテッドの子は、基本的に、学ぶことが大好きです。多くのギフテッドの子供が、新しい学びに期待をふくらませて入学します。
しかし、学校に行ってすでに知っていることを「学ぶ」のには、耐えられません。
多くのギフテッドが、入学後まもなく、学校に失望すると言われています。
IQだけで言えば、ギフテッドはおおむねIQ130以上と言われています。IQの平均は100ですが、IQ100の子を、知的支援級(目安IQ70)に入れることはないでしょう。
※もちろん、IQだけで語れない部分はありますが、わかりやすくするためにIQで語っています
4. 反復は学習効果を低下させる
ギフテッドの子供は、1回か2回の反復で物事を学ぶと言われています。
ほかの人と同じ回数反復することで、かえって学習効果が落ちることが、研究でわかっています。
特に漢字の書き取りや計算など、単純なものを繰り返しこなすことが苦手です。
また、完璧主義の傾向があることも多いです。そのため、漢字の宿題などは、まるで硬筆のような感覚で取り組んでいることがあります。宿題は、家庭と相談して分量や難易度を調整するか、自主学習にしてもらうと負担が少ないです。
宿題の目的が「学習の習慣をつけること」なら、自主学習でもOK
5. 質問が多い
授業に関する質問
ギフテッドの子供は、質問が多いです。「今学んでいることが、去年ならった地学とどう関連するか」などと考えています。授業が脱線してしまうと、先生も困ると思います。
アメリカの記事では、質問に答えられないときには、おすすめの参考図書を紹介してあげるとよいと書かれています。
学校に対する疑問
ギフテッド児は、学校のルールに疑問を感じていることがあります。小学校1年生であっても、「ルールだから」「みんなやっているから」という説明では、納得しないことが多いです。
そのような場合には、以下のような対応をすると、納得しやすいかもしれません。
- なぜそのルールがあるのか説明する
- 理由を一緒に考える
- 「あなたの疑問はもっともだ」と肯定しつつ、「お願い」する
- ルールに挑戦するときの弊害を伝える
- 経緯や背景に目を向かせる
- ルールは守るものだから
- 一人だけ違う対応はできない
- こじつけの理由
いわゆるブラック校則など、きちんとした説明ができない場合には、「どうしてだろうね」と一緒に答えを探したり、「たしかに変なルールだね」と共感するとよいです。
ルールの中には、過去には適切だったけれど、現代の実情にそぐわなくなってきたものもあります。どのような経緯でルールができたのかを説明してあげると、理解が深まります。
また、ルールを改定したり、慣習に挑む場合には、それなりのリスクが伴います。周囲の人から反感を買ったり、議論をするための手間と時間がかかったりします。そのような視点を投げかけるのもアリでしょう。
どうして校帽をかぶらないといけないの?
校帽がない学校もあるよ。昔、小学生の事故を減らすために取り入れられたんだって。子供の事故を減らしたい願いがこめられているのかもしれないね
どうして体育で体操服に着替えないといけないんですか? 北海道では体操服はありません。先生も着替えていないですよね
たしかにその通りだね。先生が子供の時もそうだったから、不思議に思ったことがなかったな。
校長先生に相談する方法もあるけど、ルールを変えるのはすごく大変だよ。
○○君、体操服を着るのは、嫌かな? 着てもらえると、先生は助かるよ。
6. 激しい性質を持っている
ギフテッドのお子さんは、「激しさ」を併せ持っていることが多いです。そのため、じっとしていられなかったり、集中しすぎて行動の切り替えができなかったり、感情を抑えられないときがあります。
これは、「過興奮性」とか「過度激動」と呼ばれるもので、ギフテッドの特性のひとつです。
本人や保護者も悩んでいることが多いです。
また、学校という場に適応しようとして、本来持っている激しさを無理に抑え込んでいることもあります。
その場合、クラスで問題行動を起こすことはありませんが、その分、家庭でストレスを放出している可能性があります。保護者から「家で宿題をやらなくて」「癇癪がすごくて」と言われたら、このような状況が起きているかもしれません。
7. 友人関係に配慮が必要
ギフテッドの出現率は、約2~3%です。これは、35人クラスで1人に相当します。1学年100人だったとすると、学年で2人~3人しかいないことになります。
ギフテッドにも理解しあえる友達が必要ですが、少数派であるため、気の合う友人を作りづらいです。
クラス替えでは、クラス間のバランスをとるために、優秀な子供をばらつかせることもあるかもしれません。しかしその結果として、ギフテッドの子供は、クラス内で孤立したり、常に周りに合わせる形になり、学校生活が苦痛になってしまうことがあります。
「周りに合わせる経験も必要」という主張もあるでしょう。しかし、ギフテッドの子供がクラスに3人いたとしても、周りの子供たちに合わせる必要は出てきます。
Aさんは「本の虫」で、休み時間になるといつも、親友のBさんと廊下で本を読んでいました。
次の年、クラスを離されたのは言うまでもありません。先生は「ほかの子とも交流してほしい」「外で元気に遊ぶこともしてほしい」と思うものですし、成績で言えば、おそらく、Bさんが学年1番、Aさんが学年2番。
その後、Aさんのクラスでいじめが起き、いじめられていた子をかばったAさんが、今度は仲間外れになりました。Aさんは、いっとき学校を休みがちになりました。
Aさんは、Bさんと同じクラスだったら、結果は違ったのではないかと感じています。
8. 教えるのは必ずしも得意ではない
頭がいいことと、教えるのがうまいことは別物です。ギフテッドの子供であっても、子供ですから、「ほかの子と自分の感覚が違う」ということに気が付くのは難しいです。
ギフテッドの子は、算数では式を飛ばしてしまい、うまく立式できないこともあります。「何がわからないのか理解できない」ため、うまく教えることができず、お互い不満がたまります。また、人に教えることによって、ギフテッドの子は、学ぶ機会を失います。
ですから、「先生役」をやらせる場合は、本人の希望をきいてから、慎重に行いましょう。ときどき、本人や保護者に確認し、負担になっていないか確認してあげると、子供に無理がかかりにくいです。
クラスのやんちゃな子たちに注意をする「注意役」を任されたAさんは、一生懸命その役をつとめました。しかし、目を光らせて注意をしているAさんを見て、周りの子は、「Aさんは学校では怖い」と言うようになってしまいました。
9. 追加で課題を与えるなら、難しいものを
ギフテッドにも、一生懸命勉強して、困難を乗り越えたり、失敗から立ち直る経験が必要です。しかし、彼らにとって学校の課題は簡単です。そのためギフテッドは「自分は、勉強しなくてもよくできる」という経験をつんでいきます。
結果として、これは子供のためになりません。
教員不足が叫ばれる中、なかなか個別の対応が難しいのは、当然です。
でも、もし追加で課題を与えるなら、量を増やすのではなく、難易度を上げるとよいと言われています。
テストや課題の余った時間は、「先生が解けないような難しい算数の問題を考えてごらん」など、先生にも大きな負担がなく、やりがいのある課題を与えましょう。
10. 傲慢な時もあるが、長い目で見守って
クラスで1番、テストの点数もよいと、謙虚さを身に着けるのが難しくなります。
ギフテッドの子どもたちにとって、謙虚さを学んでいくことは、重要な課題のひとつです。
しかし、間違えたことを取り上げて、みんなの前で「いつもいばっているあの子が間違えました!」と公表しても、残念ながら謙虚さは身につきません。それでは、いじめになってしまいます。
まとめ:ギフテッドの子の対応には、配慮が必要
ギフテッド傾向のある子を持つ保護者から配慮のお願いがあると「自分勝手」に思えることもあるでしょう。
けれども、それは、「我が子だけ特別扱いしてほしい」という主張ではないかもしれません。むしろ、「我が子にもほかの子と同じように、いきいきと学んでほしい」「我が子にも、ほかの子と同じように、楽しくとは言わないまでも、なんとか学校に通ってほしい」という願いから来ていることも多いです。
現状の学校のシステムや人員の状況において、ひとりの先生ができることには限界があります。けれども、理解しようと思ってもらえるだけで、親子は救われるものです。
最後に:ギフテッドだという申し出があるとは限らない
ギフテッドという言葉は、誤解を招きがちな言葉です。また、病気や障害ではありませんので、診断されるものではありません。そのため、「ギフテッド」という言葉を使わないようにしている保護者も多いです。
- 勘違い親
- 本物のギフテッドではない
- 自慢している
- 選民思想だ
- 発達障害なんだから、ちゃんと子供に向き合って
- 「頭がいいから配慮しろ」はおかしい
- 子供に勉強ばかりさせている
保護者からWISC結果が共有されている場合、それがひとつの判断材料になります。
「習熟度が高い生徒は、ギフテッドに限らずたくさんいる。なぜギフテッドばかりが問題になるのだろう?」と思う方へ。以下の記事では、ギフテッドと呼ばれるお子さんたちが不登校になる理由について考察しています。
また、以下は外部サイトのコラムです。どのようなクラスならば、ギフテッドの子供たち「も」いきいきと学べるのかを、医師が語っています。
ギフテッドについて知っておきたいという気持ちだけでも、ギフテッドの保護者にはうれしいものです。こちらの書籍は、日本のギフテッド研究の第一人者でもある片桐教授が執筆したものです。日本の学校事情や教育事情を踏まえて書いてあります。